あがり症を治すーエクスポージャー法

あがり症を治すーエクスポージャー法

あがり症を治すエクスポージャー法について説明しています。

あがり症や社会不安障害に悩む人が精神科を受診すると、抗不安薬を処方されるか、認知行動療法で認知の歪みを修正するか、エクスポージャー法(曝露療法)を勧められます。

エクスポージャー法は
「あえて苦手な状況に身を置き、『恐怖』に慣れる」
と定義されています。

逃げずに留まっているうちに、不安や恐怖が和らぐという考えからきているようです。

分かりやすく言うと、「場数を踏む」です。

以前、潔癖症に苦しむ患者さんをエクスポージャー法で治療する場面をTV番組で見ました。

患者さんたちは、一日に何度も手を洗ったり、お財布の中のお札を一枚づつ丁寧に洗わないと気が済まず、それらの行為に一日のほとんどの時間を費やしていました。

当然、患者さんたちは日常生活に大きな支障が出ます。

その治療の場面では、なんと患者さん達に和式トイレに素手で触れさせていました。

潔癖症の患者さんたちは、もちろん嫌がって泣き叫びます。

それでもこの治療を続けるうちに、潔癖症が治った患者さんもいました。

私はその場面を見ながら、こんな荒療治で治る人がいるものだろうか?と不思議に思いました。

エクスポージャー法であがり症は治るのか?

person sticking an adhesive tape on piano keys
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結論でいうと、曝露療法であがり症は治りません。

私も、自分があがり症だと発覚したとき、最初に考えたのは

「あがるのは人前で演奏することに慣れていないからだ。場数を踏めば、あがらなくなるだろう」

でした。

そこで、コンクールや発表会、プチ発表会、素人でも参加できるクラシックのライブハウス等、積極的に人前で演奏する機会を見付けました。

私が通っていた音楽教室では、1年に1回発表会、2回のミニ発表会、1回のコンクールがあり、それらに積極的に参加しました。

計算すると、3ヶ月に1度は人前で歌っていたことになります。

しかし、これらの努力は全て徒労に終わりました。

それどころか、頑張れば頑張るほどあがり症が悪化する、最低最悪の事態に終わりました。

ついには、ステージ上で失神しそうなほどに緊張してしまいました。

エクスポージャー法があがり症に効果がない理由

playing music musician classic
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「場数を踏めば、あがらなくなるはずなのに、効果が全くでないどころか、どんどん悪化する・・・」

あがり症と孤軍奮闘していたあの頃は、頑張っても頑張っても効果が出ない日々に打ちのめされそうになりました。

しかし、あがり症の原因が分かった現在では、なぜエクスポージャー法があがり症に全く効果が無かったのか、よく分かります。

それは、あがり症の原因は4つの恐怖症―視線恐怖症、対人恐怖症、失敗恐怖症、あがり恐怖症だからです。

関連記事:あがり症の原因|4つの恐怖症

私のあがり症の原因の一つに「視線恐怖症」がありました。

あがり症の原因①ー視線恐怖症

観客席に座る観客一人一人の視線が、まるで悪意の塊のように思えて、恐怖のあまり発表会では毎回震えあがっていました。

私のような、たかがど素人の発表会に来る観客は、発表会に参加する人の友人や恋人、家族たちです。

当然のことながら、無関係の私に興味があるはずはありません。

したがって、「観客が全員私に敵意を抱いている」と恐怖におののくのは、合理的な考えではありません。

自分でもそのことが「頭では」分かっています。

しかし、いざ本番になると、観客の視線に震えあがってしまうのです。

いくら場数を踏んであがり症を治そうとしても、観客の視線に対する恐怖が消えることはありませんでした。

場数を踏むこと6年目にして、「場数を踏んでもあがり症に効果はない。それどころか、逆効果だ」ということにやっと気が付きました。

その後、自分の脳内で何が起こっているのかを突き止めるために、心理学やカウンセリング、セラピー、脳科学の本を猛然と読み漁りました。

その研究の結果、自力で心理療法を開発しました。

その心理療法で、私の視線恐怖症の原因がようやく分かりました。

私の視線恐怖症の原因

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私は小学1年生の頃に、突然見ず知らずの上級生女子二人組から因縁をつけられたことがありました。

つい最近まで幼稚園児だった私を、私よりはるかに背が高く、体格も立派な上級生の女子二人組が、「なんで、私たちの後をつけているのよ!」と、訳が分からない理由で因縁をつけてきたのです。

このときの私は、自分では何も悪いことをした覚えは無いのに、突然上級生から言いがかりをつけられたことで、怖くてたまらなくなってしまいました。

やがて2年生になり、家の近所に新設された小学校に通うことで、その上級生女子二人組と再会する恐怖や不安は薄れることができました。

そして大人になり、このときの事件は私の中ではすっかり「過去のもの」として風化したつもりでいました。

しかし、私の脳はこのときの事件を「消去」した訳ではありませんでした。

不快な記憶を顕在意識で感じないように、潜在意識の中に「抑圧」していただけだったのです。

大人になり、趣味で始めた声楽の発表会で、それまで潜在意識の中で「抑圧」していた過去の記憶が一瞬にして蘇りました。

私の脳の「扁桃体」という部位は、「見ず知らずの観客の視線」を、「見ず知らずの上級生女子二人組の視線」とオーバーラップさせました。

そして、扁桃体は「あのときと同じように不快な目に遭うぞ!」という判断をしました。

過去に不快な思いをした状況を避けるために、「危険だから、そこから逃げろ!」という指令を私の全身に下しました。

その指令を受けることで、副腎髄質からアドレナリンやノルアドレナリンを過剰分泌させました。

そのアドレナリンの作用で、口から心臓が飛び出しそうな程の激しい動悸、大量の発汗、手足の震え、度忘れが起こりました。

扁桃体が過去の事件と現在の状況を照らし合わせて、「危険だから、そこから逃げろ!」という指令を下し、私の全身があがり症の諸症状に襲われるまで、一瞬にも満たないほどのわずかな時間しかかかりません。

したがって、私自身はなぜこんなにも観客の視線が怖くてたまらないのか、手足が震えたり、激しい動悸がしたり、大量の発汗をしたりするのか、全く理解できません。

原因が分からないからこそ、「場数を踏めば治るだろう」と、素人考えに頼っていたのです。

しかし、せっせと場数を踏めば踏むほど、扁桃体は刺激されやすくなります。

そして、扁桃体が刺激されればされるほど、「危ないから、そこから逃げろ!」という指令を出しやすくなります。

つまり、私がせっせと場数を踏んでいたのは、治るどころか、全くの逆効果だったのです。

エクスポージャー法を誤解する精神科医

man wearing black polo shirt and gray pants sitting on white chair
Photo by nappy on Pexels.com

「エクスポージャー法があがり症に効果がある」と唱えている精神科医は、おそらくあがり症の原因や恐怖症について全く理解していないのだろうと思います。

恐怖症は、それ自体は大変やっかいなものです。

しかし、恐怖症の本来の目的は「その人の身の安全をはかる」です。

その人を再び危険な目に遭わせないように、恐怖や不安を抱かせることで、「危ないから、〇〇に近づいてはダメだ」ということを分からせるために恐怖症は存在しています。

恐怖症は、人間の生命を守るために、本能として人間の脳に組み込まれている機能です。


それなのに、「あえて苦手な状況に身を置き、『恐怖』に慣れる」エクスポージャー法がいかに人間の本能に反しているか、ちょっと考えたらわかりそうなものです。

エクスポージャー法は「百害あって一利なし」なので、お勧めしません。

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「場数を踏めば踏むほど、あがり症が悪化します・・・」

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