ヴァイオリニストUさんのあがり症治療記録

Uさんは、音大を卒業したプロのヴァイオリニストです。

 

あるとき、Uさんは友人の結婚披露宴でお祝いの曲を演奏することになりました。

ところが、どうした訳か、そのときUさんはあがってしまいました。

 

Uさんによると、完璧な演奏とは言えないものの、何とか最後まで弾ききったそうです。

しかし、Uさんはこのときのことがトラウマとなってしまいました。

そして、「あがり症の無限ループ」に陥ってしまったのです。

関連記事:あがり症の無限ループ

Uさんのようにプロとして活躍するヴァイオリニストは、2~3歳の頃からヴァイオリンを学び始めます。

当然、今日に至るまで演奏会やコンクールなど、数え切れないほど人前で演奏しています。

ですから、「場数を踏めばあがり症が治る」という理論は、Uさんには全く当てはまりません。

関連記事:場数を踏んでもあがり症が治らない理由

 

Uさんは、演奏会のために心療内科で処方された抗不安薬やβ遮断薬などを服用してきました。

しかし、抗不安薬には、非常な眠気を催す副作用がありました。

Uさんは、弦を持つ手の震えと、不安感を治したいと、ネットで検索しているうちに私のサイトに出会いました。

 

カウンセリングの前には、私はいつもカウンセリングをより効率よく進めるために、「事前カウンセリングシート」でクライアントのあがり症の原因を探るようにしています。

Uさんからご提出頂いた事前カウンセリングシートには、「失敗をすると、クヨクヨと落ち込む」「人から良く思われたい」という記載がありました。

この「失敗をすると、クヨクヨと落ち込む」「人から良く思われたい」は、あがり症の原因である失敗恐怖症であることの証拠です。

関連記事:あがり症の原因③ー失敗恐怖症

 

失敗恐怖症の原因は、子どもの頃の両親との関係にあることが多いものです。

そこで、私はUさんに原因に思い当たることがあるかどうかを尋ねました。

しばらく考え込んだ後、Uさんは「多分、子どもの頃、両親が共働きで寂しかったせいだと思います」と答えました。

 

今でこそ、両親が共働きは当たり前で珍しくはありません。

でも、Uさんが子供の頃は母親は専業主婦が一般的でした。

一人で家で過ごすことの多かったUさんは寂しい思いをしていたそうです。

Uさんは母親に対してあまりワガママも言わず、いつの間にか「良い子」として振舞うようになりました。

 

私はUさんに、Uさんのあがり症の原因は子どもの頃に感じた「寂しさ」にあると説明しました。

すると、Uさんは「えぇ~!あがり症の原因って、そんなに深いところにあるんですか!?」と驚かれました。

Uさんは、あがり症の原因を知りたくて、心療内科の医師に尋ねたり、あがり症の本を読んだりしてきました。

しかし、どれも納得のいく答えは得られなかったそうです。

 

私の説明に、Uさんは初めて納得のいく答えを得ることができて、しきりに感心されていました。

私はUさんのあがり症を治すために、Uさんが子どもの頃に感じた「寂しさ」を心理療法で癒しました。

 

また、Uさんはこれまでの演奏会でのミスをしきりに気にしていました。

 

プロのヴァイオリニストと言えど、人間ですからときにはミスもします。

しかし、失敗恐怖症のUさんにとって、演奏のミスは致命傷に等しいほどの精神的ダメージをもたらしました。

この精神的ダメージも、あがり症の原因になります。

そこで、Uさんが演奏会のミスで被った精神的ダメージも心理療法で癒しました。

 

私はUさんに「治療を開始してから半年後くらいに、失敗しても落ち込むようなことは無くなります。そして、その頃には手の震えも止まっています。1年後には、恐怖感や不安感も治っていることでしょう」と説明しました。

Uさんは、あがり症を発症してから15年目にして初めて、納得のいく説明と治療を受けることができて、満足されたご様子でした。

 

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