あがり症と発達障害(ADHD・ASD)
あがり症と発達障害(ADHD・ASD)

ひどいあがり症・発声時頸部ジストニアを自力で開発した心理療法で克服した心理カウンセラーの川畑律子です。
ADHD(注意欠陥多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)などの発達障害の特性が、あがり症を発症させるという考えがあるようです。
なぜかというと、発達障害の特性がある人は社会性の発達が遅れるため、人前で話すことに不安を覚えることであがり症になりやすくなるから、ということだそうです。
私のあがり症のクライエントは、会社の社長や医師、有名な音大を卒業した音楽家、スタジアムをファンで満杯にできるミュージシャンなど、社会性の発達が遅れていたらとても務まらない肩書や職業の方ばかりです。
ですから、「社会性の発達が遅れているからあがり症になる」説には大いに首を傾げたくなります。
ADHDやASDの特性があがり症を発症させるのではなく、「第四の発達障害」と呼ばれる、「心理的・肉体的虐待を受けたことで脳が変形し、それによる影響で発達障害のような行動特性を持つ」人があがり症になりやすいのだと思います。
参考文献:杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」講談社現代新書
発達障害の特徴

発達障害には、ADHD(注意欠陥多動性障害)とASD(自閉スペクトラム)があります。
それぞれの特徴は、以下の通りです。
ADHD(注意欠陥多動性障害)
- 忘れっぽい
- 落ち着きがない
- 集中力が続かない
- 注意散漫
- 考えてから行動できない(感情のブレーキがきかない)
- 待つことが苦手
- かんしゃくを起こしやすい
- 事故にあいやすい
ASD(自閉スペクトラム)
- 人の表情や気持ちが読めない
- 比喩や皮肉がわからない
- 仲間意識がもてない
- 興味の幅が狭い
- パターン化されたものを好む
- 感覚過敏や感覚鈍麻がある
- 予定の変更や活動の切り替えに対応できない
参考文献:榊原洋一「発達障害の子どもたちをサポートする本」ナツメ社
第四の発達障害

人間の脳は、生まれてから18年かけてゆっくりと成長します。
つまり、子どもの脳は完全に成長しきっておらず、不安定な状態です。
そんな状態の子どもに肉体的・心理的虐待を与えることで、子どもの脳が変形することが研究によって明らかにされました。
参考文献:友田明美「子どもの脳を傷つける親たち」NHK出版新書523
また、子どもがまだ幼い頃から塾や習い事などの早期教育をさせることで脳の成長のバランスが狂ったり、小学生がスマホでSNSやゲームで夜更かしをしたり、塾や習い事に通うせいで就寝時間が遅くなったり、そのせいで起床時間も遅くなったりすることの影響で、「発達障害もどき」と呼ばれる、発達障害のような行動特性を表す子どもが増えている、と指摘する研究者もいます。
参考文献:成田奈緒子「『発達障害』と間違われる子どもたち」青春出版社
一口に「発達障害」と言っても、先天的な脳の欠陥による発達障害ばかりではない、ということがお分かりになるでしょう。
これらの中でも、「第四の発達障害」と著者が指摘する、「肉体的・心理的虐待を受けたことで脳が変形し、そのことによる影響で発達障害のような行動特性を持つに至った人」が、あがり症を発症しやすいのだと思います。
社会性の発達

社会性を発達させるためには、日々いろんな人と関りあって、そこから学ぶしかありません。
人と人との関わり方を学ぶ「ソーシャルスキル・トレーニング(SST)」というものがありますが、テキストを読んで学ぶより、実際に「痛い目」に遭いながら人との関わり方を学んでいくしかないのです。
こういう場面でこういうことを言ったり・やったりしたら嫌われるとか引かれてしまうとか、「場にふさわしい言動やふるまい」を、自分で体験しながら学ぶことがベストです。
しかし、そのためには前提として「自分と他人を信用している」ことが必要です。
自分と他人を信用していないと積極的に他人と関わろうとしなくなりますし、一度「痛い目」に遭ったら人間不信に陥ってしまい、自分の殻に閉じこもってしまいます。
この状態で、いくらテキストでSSTを学んでも自分の身につくことはないでしょう。
あがり症の原因

あがり症の原因は、主に対人恐怖症からくる失敗恐怖症です。
失敗恐怖症の「本当の原因」は、「もし失敗したら、観客は私をバカにするに違いない!」というものです。
自分と他人を信用していたら、この恐怖は生まれません。
自分を信用していたら、「もし、失敗したら・・・」という恐怖は生まれないし、他人を信用していたら、「観客は私をバカにするに違いない!」という恐怖も生まれません。
さらに言うと、「私は、ありのままの私で愛される存在だ」という自信がある人なら、たとえ失敗しても、それを他人からバカにされたとしても、気になりません。
この自信は、親が子どもをありのままの姿で愛してあげることで生まれるものです。
「私は、ありのままの私で愛される価値がある」と心から思える人は、自分も他人も肯定できるようになります。
つまり、あがり症になる人は、その人の親がありのままの姿で愛してくれなかったということです。
そのことは、子どもに肉体的・心理的虐待を与えていた可能性がある、ということに繋がるのです。
「発達障害の人は社会性の発達が遅れるから、人前で話すことに不安を覚え、あがり症になる」のではなく、
「親から肉体的・心理的虐待を受けた人は自分と他人を信用することができず、そのせいで社会性の発達が遅れ、あがり症になる」
というのが正解のようです。
社会性を発達させるためには、自分と他人を信用し、日々の生活の中で自分を磨いていくしかありません。
そのためには、セラピーで心の傷を癒すことです。
自分と他人を信用できるようになり、観客や失敗を恐れなくなれば、あがらなくなります。
ぜひ、たくさんの人たちの前でパフォーマンスをする楽しさを体験してもらいたいと思います。
