フォーカル・ジストニアの症状ー感覚トリック
フォーカル・ジストニアの症状―感覚トリック
フォーカル・ジストニアの不思議な症状の一つに「感覚トリック」があります。
以前、本態性ジストニアの一種である「痙性斜頸」に悩む方がカウンセリングにいらっしゃいました。
その方によると、「普段は勝手に首が左に曲がってしまうのに、手を首に添えると、首が曲がらなくなる」とのことでした。
そして、この症状は、マフラーやスカーフでは効果がなく、自分の手で首を触れることによってのみ現れる症状とのことでした。
感覚トリックとは、このようにある特定の部位に手を触れたときのみ、ジストニアの症状が緩和または消えることを言うようです。
もし、脳機能に損傷があって、それが原因で痙性斜頸が起きているとするならば、「感覚トリック」は起こらないはずです。
とするならば、この「感覚トリック」の謎を解明することで、フォーカル・ジストニアの原因を解明する端緒となるのでは?と考えました。
この「感覚トリック」に関係があると思われる、面白い研究結果を発見しました。
理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、覚醒や注意によって感覚が鋭敏になる脳の仕組みの解明に成功しました。覚醒状態では、脳の神経伝達物質であるアセチルコリン[1]の投射系が活性化し、大脳皮質の抑制性神経細胞(介在細胞)[2]の反応が増大することで、興奮性神経細胞(錐体細胞)[3]の反応がより速く減衰して、次にくる刺激に反応しやすくなることが分かりました。
自分の首に手を添えるとき、手に注意することで感覚が鋭敏になります。
「覚醒や注意によって感覚が鋭敏になる」とき、アセチルコリン投射系が活性化されます。
つまり、「感覚トリック」は、アセチルコリン投射系の活性化が引き金となっている可能性があるということです。
このことをさらに言い換えると、フォーカル・ジストニアの原因の一つに「アセチルコリン投射系の不活性化」が考えられるということです。
随意運動を制御する神経伝達物質
随意運動を制御する神経伝達物質に、ドーパミンとアセチルコリンがあります。
これら2つの神経伝達物質は、どちらかが過剰になり過ぎても、減少し過ぎてもいけません。
お互いが丁度いいバランスで分泌されることで、正常な随意運動を制御することができるのです。
このバランスが崩れたことで起こる病気の一つに、パーキンソン病があります。
パーキンソン病はドーパミンが減少したことで起こる病気です。
フォーカル・ジストニアは、パーキンソン病とは反対にドーパミンが分泌され過ぎたせいで、相対的にアセチルコリンとのバランスが崩れたことでドーパミンが優位となって発症するのではないか?と考えます。
なぜそう考えたかというと、フォーカル・ジストニアのもう一つの不思議な症状に「早朝効果」があるからです。
早朝効果は、早朝時のみ、フォーカル・ジストニアの症状が軽くなることです。
この早朝効果も、夜中から早朝にかけてアセチルコリンが分泌されることに起因しているのではないか?と考えました。
「早朝効果」も「感覚トリック」も、どちらもアセチルコリンが活性化することによって起こる症状です。
したがって、フォーカル・ジストニアの原因にアセチルコリンが関与していると考えることに、不自然さは無いと考えます。
神経伝達物質のバランスが崩れた原因
次に、なぜドーパミンが分泌され過ぎたのか?を考える必要があります。
フォーカル・ジストニアに悩む音楽家をカウンセリングしていると、彼らには共通項がありました。
その共通項は、主に以下の3つです。
1.子どもの頃に両親から精神的・肉体的虐待を受けていた
2.真面目・完璧主義・几帳面
3.フォーカル・ジストニアを発症する前に、仕事や人間関係で強いストレスやプレッシャーを感じていた
子どもの頃の両親による精神的・肉体的虐待
子どもの頃に両親から精神的・肉体的虐待を受けて育つと、脳の中の扁桃体という部位が、少しのストレスやプレッシャーでも過剰に反応します。
その結果、HPA軸が異常に活性化し、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されたり、交感神経が優位になってアドレナリンが過剰分泌されたりします。
真面目・完璧主義・几帳面
子どもの頃に両親から精神的・肉体的虐待を受けて育つと、「ありのままの自分に価値はない」と思いこむようになります。
その結果、「ありのままの自分を盛る」ためのアイテムとして、「真面目・完璧主義・几帳面」の仮面を被るようになります。
これらの特質はあくまで「自分を盛るためのアイテム」にしか過ぎません。
そのため、何かのキッカケで「自分を盛るためのアイテム」が脅かされる状況に陥ると、彼らはパニック状態に陥ります。
その結果、HPA軸が活性化し、神経伝達物質のバランスが崩れます。
仕事や人間関係での強いストレスやプレッシャー
生きていく上で、仕事や人間関係で強いストレスやプレッシャーを受けることは、誰にでもあります。
こんな時に「ジタバタしたって仕方ない」「なるようになるさ」と、楽観的に考えられる人はそれほど強いストレスやプレッシャーを感じることはありません。
ところが、子どもの頃に両親から精神的・肉体的虐待を受けて育った人はありのままの自分に自信が無いので、すぐにパニック状態に陥ります。
その結果、脳内神経伝達物質のバランスが崩れます。
これらの神経伝達物質のバランスが崩れたことが原因となって、ドーパミンが過剰分泌されたことで相対的にアセチルコリンが減少し、そのことがフォーカル・ジストニアを発症したのではないか?と考えます。
であるならば、フォーカル・ジストニアを治療するためには、子どもの頃に両親から精神的・肉体的虐待を受けたときに負ったトラウマやコンプレックスを治療することが必要です。
そうすれば、扁桃体が過剰反応することもなく、神経伝達物質のバランスが崩れることもありません。
神経伝達物質のバランスが正常に戻ることで、フォーカル・ジストニアも治ります。