ジストニアという名の演奏恐怖症

フォーカル・ジストニアという名の演奏恐怖症

 

声楽家や演奏家には、「職業病」とでも言うべき病気があります。

 

声楽家は声帯ポリープ、また演奏家は腱鞘炎があります。

 

声帯ポリープは、間違った喉の使い方により、声帯を酷使したことで起こります。

ピアニストやギタリストに多い腱鞘炎は、やはり手や腕に無理な力を入れて、練習をし過ぎたことが原因で起こります。

これらの病気は、主に「間違った演奏フォーム、間違った発声法による力の入れ過ぎ」で起こります。

 

これらの他に、演奏家に特有の「局所性ジストニア(フォーカル・ジストニア)」という病気があります。

「ジストニアのピアニスト」でも少し述べましたが、この病気になると、譜めくりでは問題なく右手が使えるのに、ピアノ演奏になると、途端に右手が動かなくなってしまうのです。

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それぞれの立場でこの病気に関して様々な見解があるようですが、私はフォーカル・ジストニアは「演奏恐怖症」だと思います。

 

フォーカル・ジストニアの原因ー失敗恐怖症

 

あがり症の原因は 視線恐怖症、対人恐怖症、失敗恐怖症、あがり恐怖症の4つです。

 

演奏恐怖症の原因は、失敗恐怖症だろうと思われます。

失敗恐怖症が原因のあがり症の人は、ステージでたくさんの人から注目を浴びると、「また、あがって失敗したらどうしよう?」という恐怖を感じます。

その恐怖がマックスに達すると、手足がブルブル震えたり、大量の発汗をしたり、かすれ声になったり、激しい動悸がしたりします。

 

私の場合、レッスンでは問題なく高音がだせます。

 

でも、発表会で歌おうとすると、どこからか「見えない手」がヌーッと現れてきて、両手で私の喉元をグイグイ締め付けてくるような感覚に襲われます。

そして、喉元を締め付けられるあまりの苦しさに、声が出せなくなってしまいます。

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フォーカル・ジストニアの人もこれと同じメカニズムだと思います。

「ジストニアのピアニスト」のピアニストさんは、「『上手く弾けなかったら、どうしよう?』と思ってから、右手が動かなくなった」とおっしゃっていました。

この「上手く弾けなかったら、どうしよう?」こそが、失敗恐怖症なのです。

 

失敗恐怖症の人が何よりも恐れていること、それは人前で失敗することで自分の価値が損なわれることです。

 

演奏恐怖症の人が恐れているもの

 

人間は、生まれてからかなりの年齢にならないと、独り立ちできません。

独り立ちできるようになるまでの長い間、「親の愛情と庇護」が何よりも必要になります。

赤ちゃんの顔が丸くて愛らしいのは、親に「保護欲」を掻き立てさせるため、とする説があります。

 

一方、子どもの側も「親の愛情と庇護」が生きるために必要だということを本能的に理解しています。

そのため、「親の愛情と庇護」が得られるかどうかは、子どもにとって死活問題になります。

 

ところが、いわゆる「毒親」によって、「親の愛情と庇護」が得られない環境に置かれる子どもがいます。

こういう不安定な環境で育つと、子どもはいつも不安定な精神状態になります。

「親の愛情と庇護」が得られないということは、子どもにとって「死」を意味します。

 

子どもは、「死」を避けるために、子どもなりにあらゆる知恵を絞ります。

そうして、生き残るために考え出した知恵の一つが「いつも完璧でなければならない」という思い込みなのです。

 

毒親は、「ありのままの自分」を愛していません。

自分自身の「ありのままの姿」を愛していないので、子どもも「ありのままの姿」で愛することができません。

子どもが子どもらしくのびのびとしていることが、毒親には許すことができないのです。

 

毒親の前で子どもが子どもらしくしていると、親からガミガミ叱られてしまいます。

そうやってガミガミ叱られているうちに、「完璧でいれば、愛されるだろう」と考えるに至るのです。

 

こういう子どもが成長すると、少しのミスでさえも恐れるようになります。

そして、「完璧」を目指して、自分にムチを打ち続けます。

ところが、どんなに努力しても、人間ですから時にはミスをします。

 

普通の人は、ミスをしてもそれほど深刻に捉えることはありません。

しかし、「ミスをすることは、自分の愛される価値が無くなること」と考えている人にとって、ミスは「致命傷」になります。

他の人からしたら「ただのミス」になるところが、「ありのままの自分」を愛してもらえなかった人にとっては、「死刑宣告」に等しくなります。

 

フォーカル・ジストニアの発症メカニズム

 

フォーカル・ジストニアを発症してしまう人の脳は「演奏でミスして失敗することは、『死刑宣告』に等しいんだな」「そんな恐怖に直面するよりは、演奏そのものを諦めさせよう」と判断して、右手を動かなくさせます。

 

「ジストニアのピアニスト」が、「『上手く弾けなかったら、どうしよう?』と考えてから、右手が動かなくなった」というのは、こうしたメカニズムによるものです。

 

私が高音を歌おうとするときに喉元がグイグイ締め付けられたのも、これと同じメカニズムです。

その証拠に、失敗恐怖症をマジック・セラピーで癒したら、「見えない手」は途端に消え去りました。

それ以来、私は喉元を締め付けられることもなく、ステージで高音を思い切り出せるようになったのです。

 

したがって、フォーカル・ジストニアの治療も、子供の頃に「ありのままの自分を愛してもらえなかった悲しみ」を心理療法で癒すことが中心になります。

自分で「ありのままの自分」を愛してあげるようになることで、失敗を恐れなくなります。

「いつも完璧でなくても、私には愛される価値があるんだ」と思えるようになることで、フォーカル・ジストニアは完治します。

 

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