悪化するとキーボードでも指が曲がる理由

悪化するとキーボードでも指が曲がる理由

「フォーカル・ジストニアが悪化するとパソコンのキーボードでも指が曲がる理由」
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フォーカル・ジストニアの症状の一つに、

「悪化すると、パソコンのキーボードを叩くときにも指が曲がる」

というのがあります。

実は、この現象も心理学で説明できることを知っていますか?

それは、「般化(はんか)」現象です。

般化の意味は、

「ある特定の刺激のもとで反応が強化されたために,他の刺激のもとでもその反応が増大すること」

とされています。

この般化現象は、心理学の有名な実験である「アルバート坊やと白ネズミの実験」によって証明されました。

アルバート坊やと白ネズミの実験

フォーカル・ジストニアが悪化するとパソコンのキーボードでも指が曲がる理由
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行動心理学者のワトソンは、生後9ヵ月のアルバート坊やと白ネズミを使って実験を行いました。

それは、アルバート坊やが興味を持って白ネズミに手を伸ばそうとすると、アルバート坊やの耳元で大きな音を出してビックリさせることです。

アルバート坊やは突然大きな音を聞かされて、ビックリして泣いてしまいます。

それを何度も繰り返すうち、アルバート坊やは「白い毛皮」をみたら、なんでも怖がってしまうようになったそうです。

たとえば、白いウサギや白い犬、白いヒゲの男性までも怖がるようになったそうです。

この「白いネズミに近づこうとすると大きな音を出してビックリさせる」ことを古典的条件づけと言います。

そして、「白い犬や白いヒゲの男性までも怖がる」ことを「般化」と言います。

このことをフォーカル・ジストニアに当てはめて考えてみましょう。

「ある特定の刺激のもとで反応が強化されたために,他の刺激のもとでもその反応が増大すること」

を「般化」と言いますよね。

フォーカル・ジストニアの場合、

「楽器に向かうと(ある特定の刺激のもとで)指が曲がるという反応が強化されたために、キーボード(他の刺激)でも指が曲がるようになった(反応が増大した)」

となります。

このように、「パソコンのキーボードでも指が曲がる」ことが「般化」と言えます。

つまり、アルバート坊やにとっての白ネズミは楽器の弦やピアノの鍵盤で、白ウサギや白い犬、白いヒゲの男性のことがパソコンのキーボードになります。

そして、この「般化」は、脳科学でも説明できます。

扁桃体による反応

フォーカル・ジストニアが悪化するとパソコンのキーボードでも指が曲がる理由

脳の中に、「扁桃体」というアーモンド状の神経集合体があります。

この扁桃体の役割は、「過去の経験と照らし合わせて、現在の状況を危険か、そうでないかを判断する」となっています。

アルバート坊やの実験の場合、「白ネズミに手を伸ばそうとすると大きな音を出してビックリさせられる」ことで、扁桃体が「白い毛皮に近づくと危険だ」と学習します。

現在の状況・・・白ウサギや白い犬、白いヒゲの男性を見ると、扁桃体が「危険だから、早く逃げろ!」と判断します。

そして、副腎皮質や副腎髄質に命令して、ストレスホルモンを分泌させます

そのストレスホルモンのせいで、急に不安になったり怖くなったり、異常な汗をかいたり、手足が震えたり、激しい動悸がしたりします。

扁桃体は、白ネズミと白ウサギや白い犬、白いヒゲの男性との区別がつきません。

ただ、「白い毛皮=危険な存在」と認識しているのに過ぎないのです。

同じことが、フォーカル・ジストニアで悩んでいる人がパソコンのキーボードに向かうときにも起きています。

扁桃体は楽器の弦やピアノの鍵盤と、パソコンのキーボードとの区別がつきません。

ただ、「指を使って何かをする行為=危険だ」と判断します。

そして、キーボードを叩こうとすると筋肉が過緊張して指が曲がるのです。

しかし、ここで疑問が残ります。

それは、なぜフォーカル・ジストニアの人の脳が楽器の弦やピアノの鍵盤を「危険だ」と判断するか、ということです。

その理由は、

「楽器の演奏を失敗したら、愛される価値が失われると考えているから」

です。

愛される価値が失われる恐怖

フォーカル・ジストニアが悪化する理由
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人間は、生まれてから長い間、親に面倒をみてもらわないと生きていけません。

そのため、幼い子どもにとって「親から愛されること」は文字通り死活問題となります。

愛情深い親に育てられた子どもは、「親から愛されているかどうか」を気にしなくて済みます。

しかし、親による愛情表現が不十分だったり、不適切だったりすると、子どもはいつも「私は親から愛されていないのでは?」と疑ったり、不安になったりします。

その結果、親から愛されるために、あれこれと「愛されるための知恵」を絞ります。

その知恵の1つに「いつも完璧でいれば、親は私を愛してくれるだろう」というのがあります。

完璧でなくても愛してくれるのが本当の愛情です。

しかし、親から愛されなかったり、親の愛情表現が不十分だったりすると、

私が愛されないのは私が不完全な人間だからだ。愛されるためには、いつも完璧でいなければならない」

と思うようになります。

このような人が成人し、音楽家の道を歩むことになります。

そうすると、演奏の失敗をひどく恐れるようになります。

演奏の失敗をすることで、親から愛されなくなる、と考えるからです。

成人すれば、親の庇護が無くても生きていけます。

1人で生きられるようになれば、演奏の失敗を死活問題として恐れる必要はありません。

しかし、人間の脳はそのような理性的な判断はしません。

楽器演奏の失敗を恐れているとき、その人の脳は無力な幼児と同じになってしまうのです。

フォーカル・ジストニアの治療

フォーカル・ジストニアが悪化するとパソコンのキーボードでも指が曲がる理由
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フォーカル・ジストニアの治療は親から十分に愛されなかった悲しみや怒り、寂しさをカウンセリングと心理療法で癒すことです。

親に対する葛藤が十分に癒されれば、楽器演奏の失敗を恐れる必要は無くなります。

脳が楽器演奏の失敗を恐怖ととらえなければ、扁桃体も過剰な反応をしなくなります。

その結果、フォーカル・ジストニアが治ります。

もちろん、パソコンのキーボードを叩くときにも指は正常な動きをすることでしょう。

アルバート坊やは成人してからもずっと、「白い毛皮」を怖がっていたそうです。

しかし、皆さんはカウンセリングと心理療法で「楽器演奏への恐怖」を取り除くことができます。

そうすれば、皆さんはずっと楽器演奏を楽しめるようになることと思います。

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